2023/05/23
5月23日 日本経済新聞(中部版)誌面にて
株式会社トイファクトリー
藤井社長のインタビュー記事が掲載されました。
「モビリティー拓く」キャンピングカー 宇宙の技で快適に –
新型コロナウイルス禍を契機にファンを集めているキャンピングカー。緻密な設計・施工で車内空間の快適性やデザインを両立させているのがトイファクトリー(岐阜県可児市)だ。車体には宇宙航空研究開発機構(JAXA)がロケット向けに開発した特殊セラミックでの断熱塗装に、遮熱効果の高いアクリルの二重窓も採用。
徹底した断熱や快適性などを追求した技で覆われる車体は、モビリティーを拓(ひら)くキャンピングカーの未来を模索している。
車内に足を踏み入れると温水シャワーや冷蔵庫、キッチンなどが備えつけられ、広々としたリビングやベッド空間はホテルさながらだ。
2月、千葉市の幕張メッセで開かれた「ジャパンキャンピングカーショー」(JCCS)。トイファクトリーのキャンピングカー「ダヴィンチ」に来場者が「すごい完成度だ」と歓声を上げた。
ベース車両となったイタリア・フィアット製の「デュカト」は22年、独自仕様の車 を開発できる正規ディーラーの契約をトイファクトリーを含む日本の5社が初めて締結した。市場に新風を吹かせるデュカトで各社がどんな仕様の車を作るのかが、JCCSでは最大の関心事となっていた。
JCCSでトイファクトリーはダヴィンチを含め、デュカトベース車を最多の5モデルを披露した。矢継ぎ早に革新的な新車を生み出す同社の創業者、藤井昭文社長が目指すのは、キャンピングカーをキャンプ用途だけでなく、モビリティー社会の「動く家」に昇華させることだ。
日本RV協会(横浜市)の調査で22年にキャンピングカーの国内保有台数は14万5000台と05年の調査開始以来最高となった。藤井氏はキャンプブームの「ピークは過ぎた」とみるが、市場が先細りするとは考えていない。
「過去にもキャンプブームを機にセダンからミニバンやワゴンなどに世の中の志向が変わった。快適な車が求められていくなか、キャンピングカーも選択肢になる時代がくる」と説明する。
「空飛ぶ車が出てきても必要とされる知恵を持っていたい」と話す藤井氏にとって、車内を快適に保つ断熱技術は欠かせないものだ。
見た目の豪華さに目がいきがちなキャンピングカーだが、同社は0.1ミリの隙間にも入り込める発泡断熱材や、防音効果も高い新断熱素材など7つの断熱技術を抱え、見 えない部分にあえてこだわる。ダヴィンチにも採用したセラミック塗装は、0.8ミリの塗膜で10センチの住宅用断熱材と同等の効果を持ち、車内スペースの確保と両立 を図った。
長く過ごせる車を作る工夫は断熱にとどまらない。家具やベッドの配置変更が難しかったキャンピングカーで、パーツを組み替え用途に応じオフィス空間や移動販売車にもできるモビリティー車「ハコハコ」を21年に投入。通常は小型バスなどとして市民の輸送に活用しながら、災害時にはベッドや診療台を簡単に組み込める車両の開発も進め、自治体に提案する。
「首長などの公用車も黒塗りのセダンにこだわる時代ではない。マルチパーパスの車 にすれば、様々な場面で活用ができる」(藤井氏)。今やバンやワゴンを改造した「バン・コンバージョン」で最大手の一角に位置づけられる同社は、業界のリーダーとして、「旅の供」の枠を超えた領域開拓の先頭も走る。
トイファクトリーで取り扱うキャンピングカー工務店を営む父の手作りカーで旅した思い出が原点となり、藤井氏が同社を創業したのは1995年。突破口になったのが、今につながる実用性に富んだ車作りだ。派手な照明器具などがもてはやされていた当時から、ほぼ顧みられることのなかった断熱や収納性などシンプルでも快適さを追求した作りで評判が広がり受注が伸びた。
2000年代半ばにはトヨタ自動車の「ハイエース」をベースにしたキャンピングカーで販売台数が全国一になったと、トヨタ担当者から報告された。地に足のついた姿勢が人材を呼び込み、年収1800万円を稼ぐ日本IBMの社員が初任給18万円の条件で転職してきたこともある。
18年からのトヨタディーラーとのコラボ車の開発でも、愚直なものづくりが認められた。約9年前、トヨタの仕事にかかわった縁で、トヨタ車体の網岡卓二社長(当時)が視察に訪れ「この会社はものづくりに重要な根本的なものを持っている」と感嘆したという。
その後、トヨタのディーラー各社から「コンセプトカーを共同で作りたい」といった声がかかるようになり、取り扱う店舗は「トヨペット」など約400店に拡大。改造業者の立場を超えて「どういう車を作りますか、とメーカーのような立場で話ができるようになった」と藤井氏は話す。
腕一つで始まった会社は22年7月期に売上高53億円を上げるまでに成長した。生産台数は735台と10年間で4倍に増え、25年7月期には1000台の大台突破を見込む。横綱・大関の地位を保つためにも、斬新な車作りを忘れた大企業病に陥ることを藤井氏 は戒める。2月のJCCSではデュカトとハイエースベースのモデル2台を並べた看板企画に、中途入社して数週間の20代女性社員の案を採用した。
大手自動車メーカーなどからグループ入りの誘いもあるが、藤井氏は「やりたいことが止まってしまう」と断っている。見据えるのはキャンピングカーが「文化のように定着している」という欧州のような環境を築くことだ。変幻自在の「動く家」が日本の道路をひっきりなしに行き来する日を目指し、同社の旅は続く。